頂き物
碧衣様より拍手フリー
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『伝えたい想いがある』


誰もいない部屋は暗闇だった。


窓の外から月明かりが差し込むこともなく、自分の姿さえも闇に溶けこんでしまいそうな部屋。


「…寒っ…」


思わず呟いた一言はそんな言葉だった。

雪か雨か、何かしら降り出したのだろう。肌に触れる空気はいつもよりも冷たく感じた。

でもそれはきっと、天気のせいだけじゃない。


「……エイト…」


ポツリ、名前を呼んだ由宇は震える指先を唇に当てた。

何かを確かめるように。
誰かの温もりを思い出すように。


「……今、何してるのかな…?」


そう言いながら、今ここにはいないエイトを思う。

近衛兵の仕事に新年などは関係なく、結果年越しを城から離れた場所で過ごすことになったエイト。


──今頃どうしてるかな。

寒くないかな、風邪引かないと良いけど…


心配しつつ、寒さを感じるのは自分。
小刻みに震える肩は正直で、どんなに頑張っても暖かいとは思えなくて。


いつもならこんな時、そっと抱き締めてくれる人がいるのに。


そんな風に思い始めると寂しくなってきて、由宇は毛布をばさっと頭から被りソファーに横になった。


──自分ばっかり、ワガママだよねこんなの。

エイトだって頑張ってるんだし……


………でも。


会いたいと思う心に嘘はつけない。
目を閉じても、耳を塞いでも、暗闇と寒さに押し潰されそうだった。


「エイトっ……。」


───会いたい。

そう願った時だった。




「由宇?寝ちゃった?」




塞いだ耳に、懐かしい声が聞こえる。

そっと目を開けて毛布から顔を出すと、見間違いようのないシルエットがドアの前に確かにいた。


「エイトっ…?」


呆けたような情けない声で訊く。
うん、とただそれだけ影は答えて、横たわる由宇を起こして言った。


「帰って来れた。…ただいま、由宇。」

「…おか…え…り…!」


ぎゅっと強く抱き締められて、冷えきった肩に温かさが触れて、由宇は思わずぽろぽろと涙を溢した。


「エイト…エイトっ…」

「大丈夫、ここにいるよ……」


頭を撫でて、頬に触れて、瞼にそっと唇を当てる。


「ひゃっ!!?」


一気に顔が真っ赤になった由宇は、恥ずかしさで固まってしまった。

目をきつく閉じて、ひどく熱くなって。


「……大丈夫だよ?」


エイトは優しく囁くと、由宇の唇に自分のそれを重ねた。

触れた唇は寒さと極度の緊張で震えていて、少し違う体温が直に伝わってくる。


──愛しい。


そう簡単に言えはしないけど、心の中では強く思ってる。

由宇が愛しくて、何よりも大切で、守りたくて。


そんな、言葉に出来ない想いも全て伝われば良いのに。


「……寒い?」


ややあって唇を離した後、エイトが静かに尋ねた。

由宇はふるふると首を横に振る。


「もう寒くない…かな。」


──エイトがこんなにも近くにいてくれてるから。


そうは言わず、小さくただ一度だけ言った。




「これからも傍にいてね…?」




エイトの由宇を抱き締める力が、より強くなった。



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