1/1page 誰もいない部屋は暗闇だった。 窓の外から月明かりが差し込むこともなく、自分の姿さえも闇に溶けこんでしまいそうな部屋。 「…寒っ…」 思わず呟いた一言はそんな言葉だった。 雪か雨か、何かしら降り出したのだろう。肌に触れる空気はいつもよりも冷たく感じた。 でもそれはきっと、天気のせいだけじゃない。 「……エイト…」 ポツリ、名前を呼んだ由宇は震える指先を唇に当てた。 何かを確かめるように。 誰かの温もりを思い出すように。 「……今、何してるのかな…?」 そう言いながら、今ここにはいないエイトを思う。 近衛兵の仕事に新年などは関係なく、結果年越しを城から離れた場所で過ごすことになったエイト。 ──今頃どうしてるかな。 寒くないかな、風邪引かないと良いけど… 心配しつつ、寒さを感じるのは自分。 小刻みに震える肩は正直で、どんなに頑張っても暖かいとは思えなくて。 いつもならこんな時、そっと抱き締めてくれる人がいるのに。 そんな風に思い始めると寂しくなってきて、由宇は毛布をばさっと頭から被りソファーに横になった。 ──自分ばっかり、ワガママだよねこんなの。 エイトだって頑張ってるんだし…… ………でも。 会いたいと思う心に嘘はつけない。 目を閉じても、耳を塞いでも、暗闇と寒さに押し潰されそうだった。 「エイトっ……。」 ───会いたい。 そう願った時だった。 「由宇?寝ちゃった?」 塞いだ耳に、懐かしい声が聞こえる。 そっと目を開けて毛布から顔を出すと、見間違いようのないシルエットがドアの前に確かにいた。 「エイトっ…?」 呆けたような情けない声で訊く。 うん、とただそれだけ影は答えて、横たわる由宇を起こして言った。 「帰って来れた。…ただいま、由宇。」 「…おか…え…り…!」 ぎゅっと強く抱き締められて、冷えきった肩に温かさが触れて、由宇は思わずぽろぽろと涙を溢した。 「エイト…エイトっ…」 「大丈夫、ここにいるよ……」 頭を撫でて、頬に触れて、瞼にそっと唇を当てる。 「ひゃっ!!?」 一気に顔が真っ赤になった由宇は、恥ずかしさで固まってしまった。 目をきつく閉じて、ひどく熱くなって。 「……大丈夫だよ?」 エイトは優しく囁くと、由宇の唇に自分のそれを重ねた。 触れた唇は寒さと極度の緊張で震えていて、少し違う体温が直に伝わってくる。 ──愛しい。 そう簡単に言えはしないけど、心の中では強く思ってる。 由宇が愛しくて、何よりも大切で、守りたくて。 そんな、言葉に出来ない想いも全て伝われば良いのに。 「……寒い?」 ややあって唇を離した後、エイトが静かに尋ねた。 由宇はふるふると首を横に振る。 「もう寒くない…かな。」 ──エイトがこんなにも近くにいてくれてるから。 そうは言わず、小さくただ一度だけ言った。 「これからも傍にいてね…?」 エイトの由宇を抱き締める力が、より強くなった。 -end- <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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